2×2〜For seasons〜


            〜 四月馬鹿 @〜


 3月31日。
 春休みもあと数日で終わろうというこの日、多聞家の一室で
は、同じ顔の少年が二人、難しそうにうんうん唸りながら、頭
を突き合わせていた。
「どうするよ」
「どうするったって……」
 勉強机の椅子に胡坐をかいて腕組みをし、同時にううん、と
また唸る。
 この家の双子の息子、多聞三志郎(兄)と多聞三志郎(弟)
であった。
 向かって左、天井を見上げている方が兄、向かって右の、下
を向き「へ」の字に口をひん曲げている方が弟だ。
 二人が悩んでいるのは、これっぽっちも進んでいない春休み
の宿題ではないし、来月ヤバくなりそうな懐具合でもない。
 明日は、何の日か。
 4月1日。いわゆる『エイプリルフール』──四月馬鹿。
 一年でたった一度、どんな大嘘を吐いても、公然と許される
日である。
 腕組みしたまま、三志郎(弟)は言った。
「お前、何かねェの?何でもいいんだよ。明日一日、つき通せ
る嘘ならさ」
 三志郎(兄)が答える。
「それが思いつかねェから、こうして二人で考えてんだろ。
お前も考えろよ」
 弟は唇を尖らせた。
「言われなくたって考えてるよ。でも、全然思いつかねェんだ
もん。俺たち絶対ェ、こういうの向いてないんだって」
 それを言っては身も蓋もない。兄も鏡に映したように唇を尖
らせる。
「仕方ねェだろ。だって、うちは……」
 ──多聞家十か条、その二。
   『嘘は吐くな。正直に生きろ』。
 嘘なんて生まれてこの方、数えるほどしか吐いたことがない。
しかも、その度にどうしてか母親にばれて、こっぴどく叱られ
て来た。
 そんなだから、今更頭をひねって考えてみても、ろくなネタ
が思いつかないのだ。
 まして、
「相手は不壊だぜ……」
 弟は頭を抱えた。
 相手が悪すぎる。明日一日どころか、一瞬たりとも騙せる気
がしない。
「お前はいいよ。フエならきっと、ころっと騙されてくれんじゃ
ねェ?」
「何でだよ」
「真面目だしさ、ひねくれてねェじゃん」
「そうかな」
「そうだよ」
 それに引き換え、不壊ときたら、ちょっとやそっとじゃ騙され
てくれそうにない。
 それどころか、嘘を見破った途端、物凄い嘘で反撃されそう
だ。
 三志郎(弟)は、がしがしと頭を掻いた。
「ああもう、どうすんだ俺!明日までこのまま考え付かなかっ
たら、嘘なんて吐けねェよ!折角のエイプリルフールだっての
に!」
「つーかさあ……」
 三志郎(兄)が、我に返ったように、言った。
「何で俺たち、こんなことムキになって悩んでんだ?」
「そりゃあ勿論……」
 ──多聞家十か条、その六。
   『何事も、やると決めたらとことんやれ』。
「「ううん……」」
 三志郎兄弟は、また唸り声を上げて考え込んだ。
 

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2008.10.19
お待たせしました!(待っていてくださった方がいらっしゃれば
の話ですが!)双子話『2×2』ですv
アンケートで『2×2』に投票下さった皆様、ありがとうございま
した!暫しお楽しみ頂けます様に、頑張ります〜♪