DEEP DEEP・E


 平面に見えていた世界が、無数に重なり合った絵に変わる。
 過去へ向けて、未来へ向けて、同じように見えて、僅かずつ
違う絵が果てしなく続く。
 その中で、電磁波が向かおうとしている場所、時点をココは
辿った。
 いくつもの枝分かれした道筋の中に、たった一本、くっきりと
浮き上がって見えるもの。
「……三年後」
 トリコが片眉を上げた。
「今から三年後。最初に決まるのは、デザートだな」
「デザートか。判った。ありがとう」
 礼を言い、トリコが立ち上がった。
「もう行くのか」
「ああ。明日、シティで依頼人と会うことになってるんだ。お前
の顔も見て、とりあえず目的は果たしたしな」
「それだけのために……」
 顔を見るためだけに、遠く900キロも離れた場所まで訪ねて
来たというのか。
 そのトリコに対してココが返したのは、半分だけの真実と、
三年後の予言だけだ。
「それで充分だ」
 見送ろうとテーブルを回り込んだココに振り向き、トリコは
にやりと笑った。
「何……?」
 右肘を捕らえられた。その手に力がこもり、抗う間もなく、
ココを引き寄せた。
 視界を塞ぐ、大きな獣。
 唇が押し当てられた。
「──トリコ!」
 横っ面を張るより素早く、トリコが身を引いた。
「三年後に、また来る。お前の占いが当たったかどうか、報告
しに」
「来なくていい!何をするんだ、いきなり!僕は嫌だって前に
も……」
「言ってねェし、思ってもいねェだろ」
 どきりとした。
「思ってないって……何の根拠があって、そんなことを」
「匂い」
 トリコが、自分の鼻を指した。
「お前から、嫌がってる匂いがしねェからさ。今も、二年前も」
 頬に、かっと血が昇る。咄嗟にテーブルに置いた香炉を掴み、
投げつけた。
 一瞬早く閉まったドアの向こうから、愉しげな笑い声が聞こ
える。
「だから、また来る。三年後を期待してろよ」
「誰がするか!」
 足音が、石畳の路地を遠ざかってゆく。
 ココは、床にへたり込んだ。
 二年前と同じだ。いきなり現れて、かき乱して、去って行く。
 だが、不思議と今回は逃げようという気は起きなかった。
 床に着いた指先に、さらさらと触れるものがあった。
 転がった香炉と、一面に散ってしまった灰。
「……掃除するか」
 独りごちてテーブルに目を移し、気付いた。
 三千円。
 キスした隙に、置いていったのだろう。やはり、律儀な奴だ。
「必ず、来るだろうな……三年後」
 その時は、自分もあと半分の理由を、口に出来るだろうか。
 眩いオーラと、それを放つ男の姿を網膜に焼き付けるように、
ココは目を閉じた。

                            了
 



2009.3.2
ということで、初・トリココでした〜!
お目汚し、失礼致しましたv