ミッシング・チルドレン


「盗聴されていたってことか」
 豪炎寺が吐き出すように言った。
「俺の周りに、内通者がいるとしか考えられない。金をもらっ
たのか、脅されたかは知らないが、風丸を追って来た連中に、
協力した奴がいたんだろう」
 あの部屋に風丸がいることを、学部棟の何人かは知っていた。
検査に立ち会った者もいたから、そこから内通者が出たとして
も不思議はないと、豪炎寺は言った。
「もう病院には戻れないな。どこに耳があるか判らない」
「そうだな……」
 爪で胸の奥を引っかかれるような、微かな違和感を覚えたが、
今はとにかく安全な場所を見つけて身を隠すのが先決だ。
 鬼道は腹を決めた。
「身を潜められる場所を用意する。まずそこへ移ろう。それか
ら、さっき話し合った段取りを考えるんだ」
「待って。段取りって、何のこと?」
「円堂を探す」
 ヒロトの目が広がった。
「風丸の身に起きたことと、おひさま園の放火は、間違いなく
繋がっている。すべては七年前、円堂の失踪から始まっている
んだ。俺たちは円堂を探し出し、敵の正体を掴む。ヒロト、お前
は──」
「もちろん、俺も行くよ」
「おひさま園は、いいのか」
「当面、子供たちは系列のホテルで預かってもらうことになっ
てるし、そちらは緑川たちがいるから心配ない。それより、許
せないのは放火犯だ。俺を脅迫するために、子供たちまで巻き
込むなんて」
 唇が震えた。白い頬に赤みがさしている。
「風丸くんへの個人的な借りもある。けど、もうそれだけじゃ
ない、子供たちを守るためでもあるんだ。俺も、連れて行って
くれ」
 鬼道は頷いた。
「判った。少し待ってくれ。すぐ使える部屋があるかどうか、
確かめる」
 鬼道は携帯電話を手に、ソファから立ち上がった。窓に寄り、
少し考えて、秘書の電話を呼び出した。元は父の第二秘書だっ
たが、鬼道が本格的に事業に携わるようになったのを機に、鬼
道の秘書になった男だ。
 早朝だというのに、普段と変わらない声で、彼は応じた。
『おはようございます』
「おはよう。済まないが、頼みがある。至急、家を一軒、用意
して欲しい。社の人間にもあまり知られていない場所を、頼む」
『家ですか。マンションでもよろしいですか』
「そうだな。セキュリティが厳しければ厳しいほどいい」
『でしたら、一つ心当たりがございます。十分後に、電話いた
します』
「判った。頼む」
 電話を切り、窓の外を見やった。完全に夜は明け、薄曇りの
空の下、街が動き始めている。
 警察署の横手に面した片側一車線の道路を、何気なく見下ろ
した時だった。
 道を挟んだ向かい側に、男がいた。
 鬼道たちがいる、警察署の建物を見上げている。その姿に、
鬼道は目を見開いた。
 背は高くもないが、低くもない。太ってはいないが適度に肩
幅があり、均整の取れた体をしている。カーキ色のコートとジ
ーンズ、そして、髪にオレンジ色のバンダナ。
「──円堂!」
「何ッ?」
「円堂くん?」
 豪炎寺とヒロトが一斉に振り向いた。二人とも窓際に駆け寄
る。


                           (続く)


2012.4.19 up