ミッシング・チルドレン


「おい!」
「まだ判らないんだけどな。それを確かめに行って来る」
「一人でか」
 何故か、不安が胸に広がっていた。そんな豪炎寺の心中を察
したのか、風丸は笑って言った。
「何も危ないことをしに行くわけじゃない。確かめるだけだし、
現地には信頼出来る人間もいる。そんな心配そうな顔をするな
よ、『相棒』」
 風丸の目が、豪炎寺から逸れた。視線を追って振り返る。
羽田から飛び立った飛行機の、明滅する光があった。
 行き先がどこか、その夜、風丸は言わなかった。
 長くとも、十日ほどで帰って来る。そう豪炎寺に告げて、別
れた。
 そして、それきり姿を消した。

               ◇ ◆ ◇

「待ってくれ、豪炎寺」
 鬼道は片手を挙げ、話を遮った。豪炎寺が目を上げる。
「最後に会った時、風丸は『円堂の行方が判るかもしれない』
と、そう言ったんだな」
「ああ」
「だがそれから一年、風丸は姿を消していた。その間、お前は
ただ待っていたのか?円堂に続いて、風丸までが消息を絶った
んだ。何かが起きたのは明らかだろう。それに、風丸の家族は
どうした。長男がいなくなったというのに、誰も探さなかったのか」
「家族は、失踪とは思っていなかったんだ」
 風丸からの連絡がないことを不審に思った豪炎寺は、風丸の
家族に電話をかけた。友人には音沙汰がなくとも、家族なら何
か知っているだろうと思ったからだ。
 電話に出た風丸の母親は、思いがけないことを言った。
『息子は、海外で仕事中です。一週間に一度は、本人から連絡
が来ています。いなくなってなどおりません』
 だが、家族から教えられた連絡先は、豪炎寺が何度電話をか
けても誰も出ず、留守電にすら繋がらなかった。
「その連絡先は本物なのか」
「風丸の家族には、嘘をつく理由がない。二度、三度と電話で
話しているんだ。声を聞き間違うとも思えないから、確かに風
丸本人だったんだろう」
 だとしたら、本当に仕事なのか、あるいは──、
「家族が捜索願を出さないように、連絡を入れたか」
 鬼道の言葉に、豪炎寺が続けた。
「そう強要されたのかもしれない」
「誰にだ」
「円堂の失踪に関わる何者かに」
 不意に気付いて、鬼道は訊ねた。
「豪炎寺。お前、風丸のことを誰に話した?」
「お前とヒロトだけだ」
「家族は?警察には──鬼瓦刑事には話したか」
「話していない」
 妙だった。
 いくら風丸が普通の状態でないからといって──いや、普通
でないからこそ、家族や警察へは真っ先に知らせるべきところ
だろう。
「まだ、俺に話していないことがあるな」
 その時、携帯の着信音が鳴った。


                           (続く)


2011.5.29 up