ミッシング・チルドレン


 家族はおろか、かつての仲間、仲の良かった友人たちにも何
ひとつ告げず、突然いなくなったのだ。
 一体何が起きたのか、どこへ行ってしまったのか、誰も知ら
ないまま、三日後には失踪届が出され、国内外を問わず、円堂
を知る者は皆、彼を探した。
 だが、見つからなかった。
 半年が過ぎ、一年が過ぎ、失意のうちにサッカーを辞める者
も出て来た。
 最後まで残ったのは、雷門中サッカー部からの仲間だけだ。
それも、高校卒業と同時に、少しずつ疎遠になった。 
「誰かと会ったか」
 露を結んだビアグラスを軽く合わせ、風丸が訊いた。「誰か」
とは、中学時代、一緒に戦った仲間たちを指している。豪炎寺
は首を振った。
「誰にも。雷門からは、一度連絡があったが」
「何て」
「どうしてるか気になった、と」
「あいつも、円堂が気懸かりなんだろう。俺のとこには、木野
から何度かあったよ」
 けれど、どれほど彼女たちが気にしたところで、依然円堂の
行方は知れない。
 離れてしまった道は、もう戻らない。
 風丸が寂しげな笑みを浮かべた。
「怒るかな、円堂。どうして皆、サッカーをやめちまったんだ、
って」
 きっと怒るだろう。円堂は、自分がどれほど周囲に大きな影
響を与えているか、まるで気付いていなかった。
 お前がいなくなったからだ。
 皆、サッカーと同じくらい、あるいはそれ以上に、お前が好き
だったからだ──そう言ったところで、円堂は聞かないだろう。
「『宇宙一のサッカー馬鹿』だからな」
 豪炎寺が言うと、風丸は小さく声を立てて笑った。
 食事の後、酔い覚ましに、運河沿いの遊歩道を歩いた。
 春分を過ぎても、ビルから吹き降ろす風は肌を凍らせるほど
冷たい。それでも、風丸は気にする様子もなく、心地よさそう
に目を細めた。
 そういえば、食事の間も、普段より口数が多かった気がする。
「何かいいことでもあったのか」
 訊ねると、風丸は豪炎寺を見上げた。街灯の明かりに、紅い
瞳が光る。
「昔から、お前は鋭いな」
「そうか」
「そうさ。サッカーか陸上か、俺が迷っていたのに最初に気付
いてくれたのも、お前だった」
「息が合わなければ、必殺技は打てない。鋭くなくても気付く
だろう」
 風丸が立ち止まる。数歩先で気付いて、豪炎寺も立ち止まっ
た。
「風丸?」
 目元が影になり、表情がよく判らない。ただ、唇が笑んだよ
うだった。
「だとしたら、必殺技の相棒が、お前で良かったよ。豪炎寺」
「……どうした、急に」
「しばらく日本を離れることになった」
 唐突に話題が変わり、豪炎寺は戸惑った。
「仕事か」
 大学を卒業してから、風丸は四つ上の姉と共に、茶道の家元
の母親を手伝っている。海外在住の日本人向けの教室を開くの
だと聞いたことがあった。
 だが、「仕事じゃないんだ」と、風丸は首を横に振った。
「円堂の居場所が、判るかもしれない」

                           (続く)


2011.5.23 up