ミッシング・チルドレン


 豪炎寺は、カップの中に目を落とし、応えた。
「二人とも、まだ円堂のことを引きずったままだったからな」
 それは、鬼道も同じだった。仲間は、皆そうだろう。少なく
とも、円堂と共に戦い抜いて来た者は皆、同じ気持ちを抱いて
いる筈だ。
 『どうして』──と。
「豪炎寺。お前は、今の風丸と円堂の一件は関係があると思っ
ているんだな。何故だ。風丸は確かに、円堂の一番近くにいた
が、それだけじゃないだろう。何か、そう考えるだけの理由が
あるんじゃないのか」
 豪炎寺は、すっと息を吸い込み、吐き出した。次に口を開く
まで、たっぷり十秒はあった。
「理由は、ある」
 続く豪炎寺の言葉に、鬼道は目を見開いた。
「円堂と同じだ。この一年、風丸も行方をくらましていた。
そして、姿を消す直前、俺は風丸に会っていたんだ」

               ◇ ◆ ◇

 豪炎寺が待ち合わせた店に入って行くと、風丸は先に着いて
待っていた。
 天王洲に建つホテルの、一階のカフェだった。
 昼は近隣のオフィスに勤める人々で混み合うが、夜ともなる
と、殆ど人気がない。四、五十はあるテーブルについているの
は、ホテルの宿泊客らしい数人だけだった。
 綺麗な半円形をした三層吹き抜けのフロアは、天井まで届く
ガラス窓を隔てて、ホテル自慢のパティオと、東京湾に繋がる
運河に面している。
 風丸は、窓際のテーブルでぼんやりと夜景を眺めていた。
豪炎寺の気配に気付き、振り返る。
「久しぶり」
 それに僅かに頷き返し、豪炎寺は向かいの椅子に腰を下ろし
た。
 目立たない位置に控えていたギャルソンが、すかさず近寄っ
て来る。
 風丸の前に置かれているのは、ペリエの小さいボトルと、泡
の消えかけたグラスだけだった。
「車か」
「いや。ここまでは知り合いに送ってもらった。帰りは電車を
使う」
 飲酒運転にならないことを確認して、豪炎寺は二人分のビー
ルと、料理を何皿か注文した。
 ギャルソンが立ち去るのを待って、風丸は口を開いた。
「急に呼び出して悪かった」
「いや。この前から半年空いたから、そろそろだと思っていた。
試験も先週、終わったところだしな」
「いいタイミングだったってことか」
 くすんと風丸は笑った。
 淡い照明に浮かぶ白い顔を、豪炎寺は眺めた。
 清潔な美貌は、初めて会った中学生の頃から変わっていない。
 変化といえば、あまり感情を表に出さなくなったことか。
 代わりに滲むような翳りが、時折表情に覗くようになった。
 それもこれも、ここにいない男のせいだ。
「もう、七年か」
 風丸は、ぽつりと呟いた。
 七年前、高校に入学して最初の夏、円堂は忽然と姿を消した。

 
                           (続く)


2011.5.13 up