イバラノミチ


                 〜4〜

「……このチームに、影山の息がかかった奴がいるかもしれな
い。そういうことだな」
 夜のミーティングの後、風丸は豪炎寺の部屋で、夏未から受
けた電話の話をした。
 窓の傍に立ったまま、豪炎寺は殆ど口を挟むことなく話を聞
き、時折、窓の外に目を落とした。
 夜間照明の下、円堂と立向居が特訓を続けている。昼間の
練習で、思うところがあったのだろう。
「そうだ。雷門は、そいつを探し出してくれと言って来たんだ」
「それで、いたのか?」
 風丸は首を振った。
「いなかった。もしかしたら、俺が、見つけたくないだけなのかも
しれないけど」
 自信なさげな風丸に、豪炎寺は言った。
「俺の目から見ても、怪しい奴はいなかったと思う。不動も、
どうにか馴染んだしな」
 不動については、完全に疑いが晴れたわけではない。特に浅
からぬ因縁がある鬼道や佐久間あたりは、まだ距離を取り相手
の出方を窺っているようだが、風丸は、韓国戦の後、「不動を信
じろ」と言ったその理由を、円堂から直接聞いた。
 ──こっちが信じなきゃ、相手だって信じる気にはなれない
だろ。いいさ、あいつが信じようと思うまで、こっちが信じてやれ
ばいい。
「俺も、不動のことは信じていいような気がする」
 呟くと、豪炎寺が目を瞬いた。
「何だよ」
「いや、お前、本当に円堂が好きなんだな」
「なっ……!」
 頬が熱くなった。豪炎寺の口元に、笑みが浮かんでいた。
「いきなり何を言い出すんだ!それはお前だって同じだろう!」
「ああ、そうだ」
 拍子抜けするほどあっさりと、豪炎寺は応えた。
 そういえば、豪炎寺が円堂をどう思っているのか、改まって
聞いたことはなかった。
 絶対の信頼を寄せている。それは間違いない。
 ただそれが、友人としてなのか、それとももっと別の感情か
ら来るものなのか、風丸には判らなかった。
 真顔に戻り、豪炎寺は言った。
「影山じゃないんじゃないか」
「何が」
「昼間の女だ。影山とは別口なんじゃないか」
 豪炎寺は、羽織っていたジャージのポケットから、何かを取
り出した。
 握った掌を、風丸の前で開く。
 取り出したのは、薄汚れた革のようなものの、切れ端だった。
「これは?」
「破裂したボールの切れ端だ」
「あの時か!」
 女が蹴ったボールは、風丸の鼻先で割れてちぎれ飛んだ。
いつの間にか、豪炎寺はその欠片を拾っていたのだ。
「これが、どうしたんだ」
「よく見ろ。ボールがどうして割れたのか、見れば判る」
 促されて、風丸は欠片をつまみ上げ、気付いた。
 不自然に焦げている。
「銃で撃ったんだ。多分」


                              (続く)



2010.9.21
うちの豪炎寺をカッコいいと言って下さった方、
有難うございます〜〜〜!!(嬉)