『CAN'T TAKE MY EYES OFF YOU』 


                × × ×

「あいつのクラスだけ、抜き打ちでテストがあってさ。おまけ
にあいつの大嫌いな算数だったもんで、メタメタだったらしい
んだ。帰りに寄ったら、居残り決定で死人みたいな顔してたぜ」
 食べかけのツナサンド片手に多門家長男──こちらも双子ゆ
え、便宜上のことだが──はもう一人の三志郎の話をし、また
ぱくりとサンドイッチにかぶり付いた。
「ふぉんふぇひゃんふぁか……」
「口に物を入れたまま喋るな」
 カウンターの内側でフエが眉を顰め、不壊は、グラスにたっ
ぷりと水を注いでやった。
 二卵性双生児の不壊たち兄弟と違って、一卵性双生児の三志
郎兄弟の顔は、よく似ている。が、性格はあちこち違っていて、
食事時などはそれが如実に現れる。弟の方が、兄より若干、
行儀が良いのだ(注:多聞比)。
「……ありがとな、不壊。そんで……あれ?何の話だっけ?」
 水とサンドイッチを一息に流し込んだ三志郎は、はたと首を
傾げた。記憶まで一緒に飲み込んでしまったのかもしれない。
 不壊は助け舟を出した。
「それで?兄ちゃんがどうしたって?」
「おーおーおー!そうだ!あいつ、不壊と何か約束してたんだ
って?どうしても今日は来られそうにないからってんで、俺に
代わりに行ってくれって半泣きで頼んで来たんだよ」
 情けない顔つきで『頼む!このとーり!』と両手を合わせる
姿が、目に浮かぶようだ。
「で、俺は何をすりゃいいんだ?」
 尋ねる三志郎に、不壊は肩を竦めてみせた。
「買い出しの荷物持ちさ。来なくていいぜ。元々、俺一人で行
くつもりだったのを、兄ちゃんが一緒に行くって言って聞かな
かったんだ」
「買い出しって、店の?」
 不壊は頷いた。
「今週は俺の番だからな」
 コーヒー豆だけは、出入りの業者から気に入ったものを直接
届けてもらっているが、たった今、三志郎が食べたような軽食
の食材は、都度自分たちで買っている。
 届けてもらうほどの量ではないし、気分でメニューを変える
こともあるから、その方が何かと都合が良いのだ。
 三日ほど前、たまたま今週の買い出しの話をしている最中に、
弟の三志郎がやって来て、「そんなら荷物持ちに付いて行って
やる」と言い出したのが、事の発端だった。
 持ちきれないほどの量でなし、一人で大丈夫だと不壊は断っ
たのだが、言い出したら梃子でも動かない三志郎のこと、結局
不壊が押し切られ、無理矢理約束を取り付けられてしまった。
「そっか、なるほどな」
 三志郎は、「ご馳走様」とフエに声を掛け、スツールからひょ
いと飛び降りた。
「なら、さっさと行こうぜ、不壊」
「……話を聞いてなかったのか?」
 たった今、付いて来なくていいと言ったばかりだと思うのだ
が。
 人の話をろくに聞かないのは、弟の三志郎も同じだが、それ
でももう少し、会話らしきものになっていると思う。
 じろりとフエを睨むと、彼は取り澄ました顔で、三志郎の使
った皿を片付けているところだった。


                       (続く)


2007.9.3 UP
念のため…この世界では三志郎も不壊も双子です。
どちらも漫画版が兄、アニメ版が弟です。
三志郎兄は野生児、三志郎弟はやんちゃ坊主、という感じ
でしょうか。