2×2〜For seasons〜


         〜 サイレント・イヴ B〜


『いつまでもカフェで遊んでいるつもりじゃないだろう。いい
機会だとは思わないか』
「……!」
 右手を取られ、目を開けた。
 驚いて振り返ったそこに、三志郎がいた。
 不壊の手を掴み、まっすぐにこちらを見詰めている。
 その眼差しも、手も、焼けるように熱い。
『不壊……おい不壊、聞いているのか?』
「ああ。聞いてるよ」
 手を握り返した。三志郎が、目を瞬く。
「悪いが、今夜は予定があるんだ。他を当たってくれ」
『不壊!』
「カフェの経営も、悪くないぜ。いい店だしな。そのうちお前
も来い。コーヒー一杯くらいなら、おごってやる」
『何を言っているんだ。もう少し落ち着いて考えれば……』
 ギグがまだ何か言っていたが、最後まで聞かずに切った。
「先に行ったんじゃなかったのか?」
「そのつもりだったけど……何となく、気になってよ」
 まだ手を掴んだまま、三志郎が訊いた。
「大丈夫なのか」
「何が?」
「今の電話。今夜、会おうって言われたんだろ」
 不安と不満、そして少しばかり興味が入り混じった顔をして
いる。
「気になるのか?」
「そりゃあ……」
 不壊は、鼻先で笑った。
「何のために、こんな人ごみの中に出て来たんだ?……行かね
ェよ、どこにも」
「不壊」
「どうせ泊まって行くんだろ?ずっと一緒にいてやるから心配
するな」
 ぱっと、三志郎の顔が輝いた。
「いいのか、泊まっても」
「今更、何を殊勝なこと言ってんだ。いつもは駄目だって言っ
たって、泊まり込むくせに」
 不壊の苦情になど耳も貸さず、三志郎が身を乗り出す。
「本当に、本当だな?ずっと一緒だな?」
「ああ、一緒だ」
 繋いだ手に、いっそう力がこもった。伝わる熱に冷えた指先
までも熱くなる。
「一晩中、朝までだぞ?ドタキャンとか、なしだからな。それ
から、それから……」
 何を興奮しているのか、勢い込む三志郎を、背後からの声が
止めた。
「おい、何してんだよ、二人とも!」
 三志郎が首を竦める。
 いつの間に着いたのか、三志郎(兄)とフエが、百貨店の
入口に立っていた。手に大きな紙袋を提げている。どうやら、
向こうは役目を果たしたらしい。
「何だよ、まだ買い物してねェの?」
 三志郎(兄)が呆れ顔で言い、三志郎(弟)が太い眉を吊り
上げた。
「仕方ねェだろ!だって……」
ふと、黙った。
「い、色々あって迷ったからよ。お前に選ばせてやろうと思っ
て、待ってたんだよ!」
 何かを感じ取ったのだろう、フエが眉を顰め、こちらに目を
向けた。その目を見返し、頷く。大丈夫、心配は要らない。
 無言の会話をよそに、三志郎兄弟の騒がしい応酬は続く。
「ホントかよ」
「ホントだって。弟が信じらんねェのか?」
 不壊の手を引き、二人の方へと三志郎が歩き出す。少し遅れ
てその後を追いながら、不意に気付いた。
 電話の相手について、三志郎は聞かなかった。
「何?」
 視線を感じて、三志郎が振り返る。繋いだ手と同じくらい熱く
力のある目だ。
 不壊は微笑った。
「別に。何でもない」
 賑やかな笑い声とクリスマスソングが、堰を切ったように流
れ込んで来た。


                           了



2009.2.27
季節外れですが、双子(の弟)ペアのクリスマスイヴでしたv
タイトルは、辛島美登里の『サイレント・イヴ』から。
あれは名曲だ〜!