2×2〜For seasons〜


〜 四月馬鹿 D〜


               ×  ×  ×

「今日、妙な嘘を吐かれなかったか?」
 午後8時45分。
 食べ終えた皿を脇に押しやり、不壊は向かいに座る兄に訊い
た。
 三志郎たちは夕食前に家に帰り、ダイニングには不壊とフエ
の二人だけだった。
 ほうじ茶の湯呑み片手に、フエが問い返す。
「誰から?」
「お前んとこの兄ちゃんから」
 案の定、フエは頷いた。
「そうやって訊くところを見ると、そっちもか」
「ああ。買い出しの帰りにな。おおかた、エイプリルフールだ
ってんで、躍起になってたんだろ。それで?騙されてやったの
か?」
「まさか。嘘は感心しないと諌めた」
「厳しいねェ」
 真面目な彼らしい反応ではあるが。
 笑う不壊を、フエはじろりと睨んだ。
「そう言うお前はどうなんだ」
「俺か?俺を騙すなら、もう少し上手くやれと言ってやったよ」
「またお前は、そうやって犯罪を助長するようなことを……」
「心配すんなって。あの詰めの甘さだ。犯罪者には、なれねェ
よ」
 フエが訝しそうな顔をする。不壊は、壁の時計を指した。
「4月1日だからといって、いつ嘘を吐いても許されるわけじ
ゃない。エイプリルフールは……」
「ああ」とフエも漸く合点がいったように、頷いた。
「4月1日の正午まで、だ」
 それを過ぎれば、嘘はただの嘘だ。
 だから皆、すがすがしい朝のうちに他愛も無い嘘を吐いて、
笑い合うというのに。
「遅刻にもほどがある。もし、あいつらが泥棒だったら、きっ
と非常ベルが鳴り終わってから金庫を開けようとするタイプだ
ぜ」
 あるいは、薬指に結婚指輪を嵌めたままで、女に結婚詐欺を
仕掛けるか。いずれ不器用な落ちこぼれに違いない。
 テーブルに頬杖をつき、不壊は呟いた。
「馬鹿だねェ……」
「その馬鹿が、好きなんだろう」
 虚を突かれて数秒、不壊は黙った。それから「まあな」と
素直に認めた。
「昔から言うじゃねェか。『馬鹿な子ほど可愛い』って」
「それに惚れる奴は、もっと馬鹿だな」
 一度、言葉を切り、フエはちらっと不壊に目線をくれた。
「お前も、私も」
 顔を見合わせ、笑い合う。
 4月1日。
 三志郎と出会って、二度目の春が、やって来た。


                            了



2008.11.1
『2×2〜Four seasons〜』第一話終了です。
お読み下さいました皆様、ありがとうございましたv

駄文TOPへ戻る