江戸ポルカ U


〜 24〜


 「さあ」と、修が撃盤を突き出した。
「戦を続けよう。貴様を倒して、僕は完璧な強さを手に
入れるんだ」
「てめェは……!」
 殴りつけたい衝動に駆られた。
 一発でも二発でも、殴ってやらなければ、気が済ま
ない。
 だが、その前に、このつまらない戦に片をつけなけ
れば。
「術符解放、白うねり!」
 ゴーレムの手足に、白い帯状の物体が巻き付いた。
動きを封じられ、土の妖が足掻く。
 修が撃符を切った。
「妖召喚、わいら!」
「妖召喚、焔斬!」
 わいらの鎌が白うねりを斬り捨てる。
 ゴーレムが反撃に入るより早く、焔斬が飛び出した。
「修殿!」
 無我が刀を抜き、焔斬の炎を防ぐ。跳ね返る熱風に、
周囲の景色がぐにゃりと歪んだ。
 耳を劈く、焔斬の咆哮。火が勢いを増し、無我の体
が徐々に後ろへ退がり始める。
「くっ……」
 押し戻そうと、無我が歯を食い縛った。
 大刀が撓んだ。刃が細かく震え、高い音を立てて折
れた。
 ゴーレムの姿が業火に消える。はらりと一枚の撃符
が、足元に落ちた。
 同時に、あれほど激しく燃え盛っていた炎が、蝋燭
の炎が吹き消されるように、さあっと消え去った。
「そんな……」
 呆然と立ち尽くす修に、三志郎は歩み寄った。拳を
握り締める。
 足を止めた。
 無我は折れた刀を鞘に収め、じっと二人を見守って
いる。
「修」
 虚ろな目が、三志郎を見とめた。その頬を殴りつけ
た。
 修は二、三歩よろけたが、声は上げず、倒れもしな
かった。
 無我が目を瞠る。
「三志郎殿!何を……」
「何をする!」
 殴られたことで、正気が戻ったらしい。一度ふらつ
いた足を踏みしめると、修は逆に三志郎に殴り掛かっ
た。
 剣術に限らず、修は体術もひととおり学んでいる。
よけそこねた拳が、三志郎の頬に叩き付けられた。
 口の中が切れ、錆びた鉄の味が広がった。吐き出し
た唾が赤い。
 肩を怒らせ、修は三志郎を睨んだ。
「何も判っていない奴に、殴られる覚えはない!」
「判ってねェのはお前の方だ!」
 右の拳を突き込む。今度はかわされたが、すかさず
胃の腑のあたりに左を打ち込んだ。修が呻いた。が、
次の瞬間、こめかみにがつんと衝撃が来た。目の前が
一瞬、赤く染まった。
「この野郎……!」
 修の小袖の胸倉を掴もうと、三志郎は手を伸ばした。
その手を避けながら、修もまた三志郎の胸倉を掴もう
として、結果、取っ組み合いになった。足払いをかけ、
かけられて、ごろごろと畳の上を転がる。
 頭上で、狼狽しきった無我の声がした。
「修殿、三志郎殿……これは」
「放っとけよ。やらせとけ」
「しかし」
「妖同士の戦いじゃ、決着がつかねェこともあるだろ」
 飄々と不壊が言い、無我も黙った。


                            (続く)



2008.6.26
やっぱり最後は素手で取っ組み合いでしょう(笑)