江戸ポルカ U


              〜 24〜


 修は、三志郎よりはるかに上手く、撃符を使いこなしていた。
 三志郎の繰り出す妖の力を瞬時に見切り、手持ちの撃符の中
から、相応しい妖を呼び出し戦わせる。
 その判断力、決断力を『才能』と呼ぶのなら、間違いなく修
は高い才能の持ち主だった。
 無論、真面目な修のことだ、努力もしたのだろうが。
「妖召喚!ゴーレム!」
「妖召……わあ!」
 反応が遅れてもろに攻撃を食らった。盾になった不壊の体を
爆風が突き抜ける。身を低くしてやり過ごし、三志郎は叫んだ。
「不壊!大丈夫か」
「心配するくらいなら、さっさと蹴りを付けてくれ。こんなの
何度も食らっていたら、こっちがもたねェ」
「判ってる」
 顔を上げ、辺りを見回した。
 文字通り、寝井戸屋一豪奢だったろう座敷は、無残な有様だ
った。
 桐の箪笥、蒔絵をあしらった手あぶり、青貝の螺鈿細工も美
しかった煙草盆──今はそれらの欠片が、散らばっているばか
りだ。
 障子が嵌っていた窓も吹き飛ばされていた。真冬だというの
に、吹き込む風は奇妙に生温かい。
 修の声がした。
「ぼんやりしていていいのか。攻撃しないのなら、こちらから
行くぞ。叩き潰せ、ゴーレム!」
 修が呼び出した、厳ついからくり人形を思わせる妖が長い腕
を振り上げる。
 不壊が、三志郎を抱えて二間ほども後ろへ飛んだ。三つ続き
の東端、不壊の部屋だ。これより後はない。
 ゴーレムの手が、畳にめり込んだ。柱や欄間がみしみしと音
を立てる。
 焔斬を呼び出すか。
 だが、撃符を掴んだ手を三志郎は止めた。見咎めて、不壊が
言った。
「相手が知っている奴だから、手加減しようなんて考えてんじゃ
ねェだろうな。今の兄ちゃんに、そんな余裕はねェんだぞ」
「そんなんじゃねェよ。……修、聞きたいことがある」
 不壊の打掛から這い出し、三志郎は尋ねた。修の冷たい目が
見返す。
「何だ」
「お前に、撃盤を渡したのは誰だ」
「……何故そんなことを聞く。お前には関係ないだろう」
「いいから答えろ!誰がお前に撃符の扱いを教えたんだ!」
 三志郎の剣幕に気圧されたように修は顔を歪め、答えた。
「須貝正人。妖を操るなら、彼の右に出る者はいない。唯一、
僕が師と認める存在だ」
 予想していた答と、そうであって欲しくないと願っていた答
が、同時に返って来た。三志郎は、奥歯を食い縛った。
 唯一の師。修は、正人の戦相手ではないのだ。
 突然、頭に閃光が走った。
 口にしたくない。だが、聞かずにはいられない。
「亜紀の家──日野屋の火事のこと、何か知ってるか?」
「ああ、あれか」
 修は嗤った。続く言葉に三志郎の後ろ髪が逆立った。
「あれは、僕がやった」
「何だって?」
「試験だったのさ。僕がどれだけ撃符を使えるようになったか
を、正人に見てもらうためのな。
妖の選び方、攻め方、引き方。どれも完璧に僕はこなした。
だから今日、こうしてお前と戦うことを許されたんだ」
「修!てめェ、そんなつまんねェことのために……!」
「黙れ!貴様にとってつまらなくとも、僕にとっては大切なこ
となんだ!」
 眦が裂けるほど目を見開き、修が怒鳴る。負けじと三志郎も
怒鳴り返した。
「亜紀は友達だろう!友達より大切なものがあるのかよ!」
「友達だと?それが何の役に立つ。強さとは、何にも勝る正義
だ。そして、それは自分で掴み取るしかない。友達だ何だと甘
っちょろいことを言っていては、決して手に入れることは出来
ないものなんだ」


                            (続く)



2008.6.23
今更のようにカードゲームが欲しくなった…カード系が好き
なのです。色々シミュレーションしてみたい。