先触れの声が上がった。

 人垣が割れ、行列がゆっくりと歩き出す。

 六つ丁子の紋入り提灯を掲げた若衆連を先導に、十四、五歳

ばかり、紅い着物を纏った新部子が数名続く。

 花魁は、その後ろにいた。

 長く黒い打掛に、散るは雄の孔雀の羽模様。

 前で結ばれ、たっぷりと垂らされた豪奢な帯も、打掛の刺繍

に合わせた碧青だった。織り込まれた金糸が、灯火の光を受け

て光る。

 黒漆を塗った三枚歯の下駄で、八文字をゆっくり、ゆっくり

踏みながら進むと、黒い着物の裾が割れ、緋縮緬の蹴出しが

覗いた。

 初見の客はその足元にまず見入り、次いで上半身へと目を

上げて、例外なく「ほう」と声を上げた。

 この花魁は、異形の者であった。

 居並ぶ男どもを見下ろすほどの長身と、白粉など無縁な、

青白い肌。

 そして、緩く結い上げられた髪は、銀色だ。

 紅い珊瑚玉を繋いだ簪が、しゃらしゃらと音を立て、揺れる。

 ──まるで……

 ──まるで、妖のようではないか。

 ──あやかし太夫。

 ──あやかし太夫だ。

 口々に囁かれる言葉を耳に、少年は駆けた。

 行列とすれ違う一瞬、人垣の隙間から花魁の姿が覗いた。

 花魁の目が、ちらと少年を捉えた。少年も、見返す。

 どちらも、足は止めなかった。